· 

【Program1】コーチング

2019年度の「女性研究者リーダシップ・プログラム」の研修の1つに“コーチング”がありました。今回はその研修からの学びを共有したいと思います。

 

一般社団法人日本コーチ連盟によると、「コーチングは「答えはその人の中にある」という原則のもと、 相手が状況に応じて自ら考え、行動した実感から学ぶことを支援し、 相手が本来持っている力や可能性を最大限に発揮できるようサポートするためのコミュニケーション技術」[1]ということです。

[1]一般社団法人日本コーチ連盟https://www.coachfederation.jp/ca/coaching/(2020年7月20日最終閲覧)

 

本プログラムの目的は、参加者である我々が仕事における目標や課題を設定し、講師の支援を受けながら、目標達成や課題解決に到達することでした。講師は、国家資格1級キャリアコンサルティング技能士を所持し、愛知県女性の活躍促進コーディネーターとしてもご活躍される株式会社キャリアデザインの樋口貴子先生にお越しいただきました。

 

 

コーチングで扱われる話題にはプライベートや職場の個人的な情報も含まれるため、通常のコーチングはコーチとのマンツーマンで行われるものだそうです。本プロジェクトでは、女性研究者には共通する課題があり、他の参加者のケースも参考になるだろうとのことで、あえてオープンな形で実施されました。ただし、各人がゆっくり相談できるよう少数でグループ分けされ耳にした情報は第三者に口外しないよう注意すること、職場が近すぎるメンバー同士は違うグループに配置換えをするなどの配慮がありました。

 

 

本プログラムは3つのステップから構成されていました。

 

Step1:現状の把握、ゴールの具体化、行動計画の作成

 

 1回目のコーチングでは、講師の先生からコーチングの流れの説明がありました。そして、自らの目標に向けての具体的な行動目標を記載する“アクションプラン”シートを頂きました。自分の目標達成や課題解決というと、これまで何度も何度も行ってきた作業だと思いましたが、改めてその行程を確認すると、あまり重視していなかった部分が重要な意味を持っていることに気づきました。

 

 まずは「目標の明確化」です。その名の通り、いつまでに、何を達成したいかを明確にするのですが、大きな目標だけを掲げるのではなく、その目標を達成するまでに必要な過程における短期の具体的な行動目標と時期を明らかにしていきます。目標を掲げただけでは、何から始めてよいか分からず、時間だけが無駄に過ぎてしまいがちです。しかし、達成しやすい目標があると、自分が何をすべきか明白で前進しやすくなります。そのスモールステップの積み重ねが目標達成に繋がります。私もこの短期目標を設けることにより、重い腰があがり、行動しやすくなりました。

 

 続いて「現状とギャップの明確化」です。いくら目標を立ててみても、それが達成できる状況なのかを判断する必要があります。問題なくその目標を達成できる環境にいるのか、そうでないのか。問題があるとすれば何なのかを明らかにすることが、目標達成には重要な課題となります。ここでの学びは、“固定概念からの脱却”です。限られた時間の中で新たな行動を起こすためには時間の見直しが必要となります。その際に、慣習的に行われていることに対して、本当に必要なことなのか、方法を変えて簡略化することはできないかなどを検討し、最終的にはそれを撤廃してしまう事も必要という事です。マルチタスクの中で新たな行動を起こそうとする際には、本当に必要なものを見極めて取捨選択する力も必要だと実感しました。

 

 そして「リソースの棚卸し」です。利用できるものを最大限に利用することは、目標達成にも重要なカギとなります。そのためには、まず“利用できるもの”を明らかにし、“それをどのように利用するか”を考えていく必要があります。また、リソースを活用するだけでなく、自分がそのリソースを利用することで他に与えられる影響もアピールしておくことも重要だと学びました。特に人的なリソースは、私はあなたからこのような支援を受けることでこのような変化をするので、あなたにはこのようなメリットがある、ということを伝えていくことで、人間関係の構築にも繋がりますし、そう言った手前の自分への負荷ともなると思います。

 

Step2:進捗状況の確認、成果を妨げるもの及び必要なリソースの明確化

 2回目のコーチングで、作成したアクションプランシートを講師の先生に確認して頂き、内容をブラッシュアップしていきました。各項目について掘り下げて質問を投げかけてもらうことで、アクションプランがクリアになっていくことが分かりました。

 

Step3:最終成果報告

 約3か月後に3回目のコーチングとなりました。今回はアクションプランの振り返りです。アクションプランの進捗状況を講師の先生にお伝えし、フィードバックを頂きます。また、ここまでの目標や達成度を踏まえて、今後のステップについても議論しました。時期をあけて定期的に専門家と面談する機会がある事で、目標の達成度や状況の変化に応じたアドバイスが得られ、アクションプランをこなすモチベーションになりました。

 

 

<メンバーAの場合>

 1回目のコーチングの後、アクションプランシートを作成してみました。いざ作成してみると、(自分ではクリアになっていると思いこんでいた)行動計画が曖昧なものであったと自覚しました。「教育者・研究者」としての最終的な目標、長期目標は“自己の研究を継続すると共に後進の育成にあたる”ということですが、まず3~5年以内の中期目標を設定しました。「教育者・研究者」としてのステップアップとして大学院進学を目指しているため、“大学院を修了し、学位を取得する”を挙げました。3~5年以内に学位を取得するとなると、今行っている研究を完成させ、大学院で取り組む研究内容を収斂し、大学院を受験し・・・と短期の行動目標を挙げました。こうしてみると、「わかっていたけど大変だ!」と、目に見えて分かりました。これは本腰を入れて動かなくてはと再認識した次第です。

 そして、私は子供がいるため、アクションプランを「教育者・研究者」と「養育者」の自己実現という二本柱で考えていました。そこで、「養育者」としては、子供の成長に伴い問題となる受験に対し、中期目標を“子供が希望の学校に進学する”としました。こちらも、短期の行動目標を考えると、子供の進路の希望を確認する、情報取集する、学力に応じて勉強の手段を整える・・・など、いろいろクリアしなくてはいけない問題があることに気づきました。「私こんなにできるのかしら」と不安を募らせつつ、2回目のコーチングに伺いました。

 2回目のコーチングで、作成したアクションプランシートを講師の先生に確認して頂き、内容をブラッシュアップしていきました。「今行っている研究の進捗状況は?」「進学したい大学院は決まっているのか?」「大学院での研究テーマの進捗は?」など質問を投げかけてもらうことで、「この部分の詰めが甘かったな」と不足していた部分が明確になりました。そして、「子供のことを考えると、自分の進学はもっと後の方はよいかとも思うんですよね・・・」と言ったところ、講師の先生は「お母さんが一生懸命勉強している姿を見たらお子さんも一緒に頑張ろうと思うわよ」と。なるほど、これが「リソースの棚卸し」か、と感じました。私にとっても子供にとっても刺激になるのであればそれはリソースとなりますよね。

 3回目のコーチングででは、私のアクションプランの進捗状況を報告しました。現在進行中の研究も概ね終了できる段階となっており、子供の進学に関する情報収集も始めました。概ね、この時期までに達成しようと挙げていた短期目標については達成できました。やはり、スモールステップの目標を挙げたこと、それを達成するためのリソースや課題が明確になっていたことから取り組みやすかったこと、などが目標達成に繋がったと感じています。次は約半年後の大学院受験に向け、準備を進めていきます。

 3つのステップを振り返り、私自身の最も大きい学びは「ビジョンの共有が大切」という事でした。自分だけが目標を掲げて達成しようとしても限界があります。「自分はこの目標を達成するために、こういうビジョンを持って行動している」ということを周囲の人と共有することでたくさんのメリットが生まれるということを実感しました。職場の上司や同僚と共有することで助言やサポートを得られる機会に恵まれ、これまで以上に目標達成までのプロセスが明確になりました。また、家庭においても、夫だけでなく子供とも自身の目標や課題を共有することで、今まで以上のサポートを得られるようになりました。

 また、今回の学びは、自分のキャリア形成のためだけでなく、教育者として学生と関わる中でも、養育者として自分の子供たちと関わる中でもとても活用できるものとなりました。学生や子供が目標や課題を達成するプロセスを共に考えていく上で、今回のコーチングで学んだ知識は大いに役立っています。

 

<メンバーBの場合>

 短期・中期・長期の目標やアクションプランを立てる練習は今後も役に立つと思いました。中長期の目標を持っていると自分のために「今」しなければならないことが見えてきて、日々のTo doリストの項目にも変化が生じたように思います。また、コーチングでは、家庭のことや大切な人たちのことについてもたくさん聞いてくださって、プライベートの充実もきちんと考慮に入れながら、目標を立てられたことが、とても現実的であり有用だったと感じています。

 このような今後も自力で続けられそうなテクニックや考え方に加えて、講師の樋口先生との会話自体が非常に大きな力になりました。私は当初、明確な目標を定められずにいたのですが、樋口先生が丁寧に質問を重ねて私の思いを掘り下げ、私の不満をうまく言語化して、目標の整理を手伝ってくださいました。コーチングを受けていた時期は、ちょうど多忙のため心が疲れてしまった時期と重なっており、目の前のことを必死にこなすだけで日々を過ごしてしまっていました。正直、大きな目標は書けても、時系列でのアクションプランまでは立てられませんでした。それでも、定期的なコーチングの機会に、大きな目標や自分の希望を再確認できることや、自分のやったことを報告できる喜びが、大変励みになりました。目標の立て方を教えていただいたことももちろん重要でしたが、専門家の力を借りることがこんなに大きな助けになるということを初めて知りました。

 振り返ってみると、コーチングを受けていた時期に複数のことを達成していました。忙しさの中にも、自分の努力や成し遂げたことの意義を確認して、自分の成長を感じることができたのは、コーチングのおかげだと思います。

 

 

 

最終更新日:2020/7/20

 


Contact

メモ: * は入力必須項目です