結婚して、いつかは自分の子どもも欲しい…
パートナーからも子どもが欲しいと言われている…
でも、今が一番研究をがんばりたい時期なのに…
みんないつ、どういうタイミングで妊活を考えているの?
多くの女性研究者にとって、妊娠適齢期と学位取得後の仕事のがんばりどきが重なってしまうもの。女性研究者としてのキャリア形成と、妊活のタイミングについて、いくつかのケースをまとめてみました。
なお、以下のケースはいずれも第一子の妊娠・出産のタイミングについて体験談を集めました。
また、研究者のキャリアとして、「学生→任期付き職→任期なし職」という流れが多いものと想定しています。
ケース1:学位取得前(学生・学振DCのとき)に
・このタイミングで子どもを持つことを考えた理由
- とにかく早く子どもが欲しかった。
- 当時(博士課程在学中)は、研究者になってからのブランクは致命的と考えていた。
- 実家に住んでいて親からの育児支援が見込めた。
- 休学中は学費がかからなかった。
・メリット
- 若いうちに産むので産後に(比較的)体力がある状態で育児に臨める。
- 両親・義両親も若い(人によってはまだ定年退職前)ので、経済的援助・育児支援が得られる。
・デメリット
- 大学や日本学術振興会と雇用関係がない(※1)ため、産休・育休が取れない。
- 経済的負担が大きい(育児休業給付金が出ない、子育て費用+学費がかかる、etc.)。
- 自治体によっては保活で不利になることがある。(※2)
- 産後の体調や育児・保育の状況(保育園に入れているか、親の支援が得られるか、etc.)次第で、在学期間の延長や学位審査時期の延期などが必要となる。
※1:
学振特別研究員はDC・PDともに日本学術振興会とは雇用関係にない。いずれも「採用中断(1子につき1回、出産予定日の6週間前の日の属する月の初めから、子が満2歳に達する日が属する月の末まで)」は可能だが、その間研究奨励金は支給されない。
※2:
(例)名古屋市のH30年度保育利用調整基準表における利用調整の優先順位が高い順にA〜Hのうち、
・居宅外就労 (外勤・居宅外自営)・1日4時間以上 かつ週4日以上の勤務に該当する場合・1週40時間以上勤務→A
・就職に必要な技能習得のために職業訓練校、専門学校、大学等に月16日以上かつ週30時間以上就学している→D
・就職に必要な技能習得のために職業訓練校、専門学校、大学等に月16日以上かつ週16時間以上就学している→E
ケース2:任期付き職(ポスドク・特任教員など)在職中に
・このタイミングで子どもを持つことを考えた理由
- とにかく早く子どもが欲しかった。
- 両親・義両親からのプレッシャー(※3)があった。
- 不妊体質で治療が必要となった場合、早く始めた方がより成功率が高まると考えた。
- 自分とパートナーの加齢に伴い、胎児へのリスクが高まると考えたため。
- 任期がある程度長い(3年以上)場合には、仕事が軌道に乗ってきたタイミングで出産・育児に臨むことができると考えた。
- (任期付きとはいえ)給与や研究奨励金による毎月の収入があり、経済的にもなんとか子どもを育てていけると考えた。
※3:
大学院を5年間で順調に卒業したとしても、学位取得後最初のポスドクの時点で27歳。結婚して、(任期付きとはいえ)就職もしていて、20代後半といえば、親世代からするとすでに子供が複数いてもいいと思うような年齢のようである。
・メリット
- 若いうちに産むので産後に(比較的)体力がある状態で育児に臨める。
- 両親・義両親も若い(人によってはまだ定年退職前)ので、経済的援助・育児支援が得られる。
- ある程度の長さ(3年以上)の任期がある場合、育休取得可能時期も長く、焦らずに妊活できる。
- 大学や組織内でまださほど責任ある立場についていないので、妊娠・出産・育休取得などに伴う仕事の調整がしやすい。
・デメリット
- 若手研究者として多くの業績を出さなければいけない時期(研究者としてのキャリア形成のために一番頑張りたい時期)に、研究に割く時間が制限される。特に、新しい研究テーマや大きなプロジェクトに取り組んでいるような場合、無意識に自分のキャリアと子どもを持つ希望を天秤にかけて悩むことになる。
- 学会やセミナー後の懇親会など、他の研究者と交流する機会への参加を控えた場合には、今後の研究活動やキャリア形成のためのネットワーク作りでチャンスが少なくなってしまうことがある。
- 3年以下の任期の場合、出産しても育児休業が取得できないことがある。(※4)
- 非常勤で他大学の講義を受け持っている場合は、出産・育休で一度その講義を手放すと、育休明けに同じ科目の担当に復帰は難しいことが多く、講義経験(や収入)を得るためには、育休から復帰後に新たに非常勤講師の職を探さなければならない。また、採用されても講義資料を新たに作り直さなければならない場合がある。
※4:
育児休業が取れるのは、①同一の事業主に引き続き1年以上雇用されている、②子が1歳6ヶ月に達する日までに労働契約の期間が満了することが明らかでないこと、の両方を満たす場合である。つまり、任期付きでそれ以上の更新がないことが明らかな場合、
・1年任期のポスドク→在職中に育休を取得できない(①の条件×)
・2年任期のポスドク→在職中に育休を取得できない(②の条件×)
・3年任期のポスドク→在職2年目に育休を取得できる。ただし、在職2年目の1〜6ヶ月目に出産した場合に限る。
また、育休取得に伴う任期の延長の可否は場合による。
ケース3:任期付き職から任期なし職に移れたタイミングで
・このタイミングで子どもを持つことを考えた理由
- 任期付きの状態だと今後の人生設計をする際に不確定要素が多く、もしも次のポストが見つからなかったら…という不安を抱えたまま妊娠・出産するのが怖かった。
- 任期付きでポストを移るたびに全国(場合によっては世界中)を転々とする生活だと、子供にとっても負担になるのではないかと考えた。
- 任期付きでポストを移るたびに引っ越し、パートナーとは別居婚の生活が続いていたため、任期なし職に就いて定住・同居できるようになるまで妊活の機会がなかった。
・メリット
- 安定した雇用・収入があるので、出産後の人生設計に不確定要素が少ない。
- 育児休業の取得など、大学や研究機関の福利厚生が最大限に利用できる。
- 任期付き職在職中よりも、精神的に安定した状態で出産・育児に臨める。
・デメリット
- 年齢的に、子どもを望んでも持つことが難しい可能性が高まる。
- 両親・義両親の年齢次第では、育児支援が受けられない可能性、育児と介護が同時にやってくる可能性、孫の顔を見せるよりも先に見送ることになる可能性などがある。
- 講義担当・学生指導・委員会など、より責任ある業務が増えるため、妊娠・出産・育休取得に伴う仕事の調整が大変になる(かつ気を遣う)。
- 講義・学生指導・委員会・研究室運営etc. で、ただでさえ少ない自分自身の研究時間がさらに削られる。
まとめ
以上の3つのケースはあくまで個別のケースであり、メリット・デメリットも複数のケースに共通するものもあります。メンバやその周辺の研究者の話を聞くと、上記の3つのケースのメリットに挙げたことのように、自身とパートナーが納得できる理由が見つかったときに妊活を始める方が多い印象です。ここで大切なのは、自身、そしてもちろんパートナーの、キャリアプランや(仕事・プライベート問わず)将来の希望を具体的に共有しておくことです。
しかし、妊活をはじめても、すぐに授からないこともあります。反対に、予期せぬ妊娠で慌てることもあるかもしれません。「妊娠」のタイミングはコントロールできませんが、「妊活」自体はコントロールできます。「自分流の妊活がなかなかうまくいかなくて悩んでいる…」や「今はどうしても仕事に専念したい!」など、妊活・妊娠時期に関して明確な希望がある場合は、ぜひ早めに産婦人科を受診することをお勧めします。特に女性医師の場合、私たちと同じように、自身のキャリアと妊娠のタイミングの悩みを経験されている場合があるので、妊活や避妊に関して親身に相談にのってくれることも多いです。産婦人科で処方してもらえる低容量ピルを服用し、排卵を抑えて身体を休ませながら妊活・妊娠の時期をある程度自分でコントロールすることも、1つの方法です。
また、妊活を始めると、妊娠した場合を想定して講演依頼や出張を断るなど、先々の予定を調整しておいた方が良いのでは?と考える方もいらっしゃるかもしれません。確かに、もし妊娠したらつわりなどの体調の変化もありますし、周りの方に迷惑がかかってしまうかも…と思ってしまうかもしれませんね。しかし、妊娠してもすぐに赤ちゃんが生まれるわけではありませんし、上司や同僚などに相談することで、仕事を代わってもらったり、予定の再調整を行うなどの対応ができます。どうしても職場が理解を示してくれない場合には、母性健康管理指導事項連絡カードを提出することで、医師等からの指示を職場に伝えることもできます。
子どもが生まれてからの育児は男女に共通ですが、妊娠中10ヶ月もの間胎内で赤ちゃんを育み、そして出産するのは、私たち女性にしかできないことです。自分自身の夢やキャリアと子どもを持ちたい気持ちの間で悩み苦しみ、自らの可能性を狭めたり諦めたりしなくて済むようにするためには、妊娠中や出産後に相談できそうな家族や職場の上司・同僚を見つけておいたり、使えそうな医療・公的サービスを事前に調べておくことが大切だと思います。
最終更新日:2020/05/22
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